篠田節子「薄暮」

薄暮

薄暮

 物語は、雑誌編集者の中年男性の視点から描かれる。それなりの自負を持って長年携わっていた芸術雑誌が廃刊となり、不本意な異動となった。ところがある号でエッセイストが、地方に埋もれた画家の遺作を紙面で取り上げたことから、作品集を作ることになり再び情熱を取り戻す。
 あくまでも自分の地盤である新潟にこだわり、新潟の風景や人々の生活を描いて生涯を終えたその画家を、なんとか自分の過去の経験を生かし光を当てたいと願う。
地元でも、画家の生前から「郷土の星」として金銭面でも支え続けた人々が、「閉ざされた画家」を世に送り出そうと動き始める。
 しかし、存命である妻が、著作権者として口出しを始め、なかなか思うように進まない。その裏には、傍目には幸せそうに見えたおしどり夫婦の姿からは想像もできない過去の出来事が…。
 絵の値段を釣り上げるために仕掛けられた罠、ブローカーの影、渦巻く地元の支援者たちのエゴ…。

 ミステリータッチで進むので次々と読み進みたくなってしまう。絵の世界の流通事情、出版の著作権問題、夫婦の情念…。
作者の確かな筆の力で、久々に読み応えのある作品だった 。