ど真ん中

純愛小説

純愛小説

 図書館で本を借りるときの第一条件は「本がきれいなこと」。以前、書くのもおぞましいような悲惨な本に出会って以来、この条件は絶対ゆずれない。どんなに読みたい本でも汚かったら借りない。
 この本は、作品・作家さんの何の予備知識もないまま、そんな条件に見合う、ということだけで借りてきました。
 「純愛小説」というタイトルのような甘ったるい作品はひとつもありません。すべて40代50代の男女が主人公です。

 そのなかでも「智恵熱」は、まさに今の私の環境ど真ん中の作品でした。
 大学に入学したばかりの息子が一人暮らしを始める。父親が下宿先に寄ってみると、先輩の女の子とご飯を食べていた。「お母さんには言わないでおいてほしい」と男同士の約束をする。
 大人になろうとしている息子と、「あっけらかんとして、それでいて上品な、微塵の屈託もない清潔感」にあふれたそのガールフレンドに対する思いを父親目線で描いています。

彼の学生時代、アパートに女が来る、ということは、すなわち性交を意味した。一緒に暮らすことは「同棲」として陰湿きわまるニュアンスで語られ、生活するよりは二人で狭い部屋にひきこもって、朝から晩まで汗まみれでセックスをして、やがて破局にいたるイメージがあった。

「無責任な真似だけはするな」小声だが激しい口調で諭した。
「あのお嬢さんの学生生活を中断させることは、どんな理由をつけても、絶対にだめだ。わかったな。」

 女の子は、志高く、先を見据えて勉強している。「あっちが卒業したら、大地(息子の名前)、たぶん振られるわね」という妻の言葉で終わっているのが、効果的な余韻を残しています。

 父親と息子の関係が、男と男の関係に変わろう一瞬をうまくとらえている作品です。

 文学分野の作品は一切読まないムッシュに、「行き帰りの電車の中で読めてしまうから、読んでみて」と渡しました。