吉田修一「東京湾景」

東京湾景

東京湾景

 吉田修一さん、やっぱりすごいわ…。
 なにがいちばんすごいって、登場人物たちの会話。浮遊した気持ちにまとわりつくせつなさ、距離をはかろうとする空気感がひたひたと伝わってくる。お台場、ゆりかもめ東京湾の景色さえも知らない私だけど、まさに私は数日間その中にたたずんでいた気がする。

 調べてみると、6年ほど前ドラマ化されていたらしい。けれどもその脚本のあらすじを読んでみると、原作とは全く別のものになってしまっていることにびっくり。原作中には、韓国に絡めた内容など皆無。登場人物も全然ちがう。ここまで、変えてしまって、「吉田修一」の名前を出すのは失礼やろ、という気がします。

 心のつながりを求めているのに、距離を測りながら探りを入れながらしか近づけない2人。25歳と28歳の恋愛は、私にはまぶしすぎ、遠すぎ、せつなすぎ…。

 久々に美しすぎるラストシーンに出会えた。「は〜っ」って大きなため息をのばした。